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― 人生を最高に生きる 老子の言葉 ―
第5部 どんな人生が最高か 第 六十九章 兵法の極意
敢えて寸を進めずして尺を退く一寸先に進もうとするより ぐっと後ろに下がりじっくり大局を見る
猛暑や嵐に仕事や日常が翻弄され、体力を消耗した夏も過ぎ、いつの間にか暖かいコートとマフラーが必需品の季節になりました。
温暖化加速が叫ばれる現代にあって、冬の凛とした寒さがまた巡って来てくれたことに少しほっとし、また身が引き締まる思いがします。
天地自然は人間社会の喧騒などものともせずに、粛々と時は過ぎて季節は移り変わってゆきます。
私達は、人間社会だけにとらわれた毎日から時には顔をあげ、天地自然にじっくりと学ぶ時間をもつことが、とても大切になっているのではないでしょうか。
今月も皆様とともに、古代中国に生まれた人類の叡智「老子」より、無為自然に明るく楽しく豊かに生きる知恵を、学んでまいりましょう。
今月は第69章「頑張って一寸先に進もうとするより、あえて一尺後ろにさがって譲る」無為自の生き方です。
この章は、「兵を用いるに言有り」ではじまり、老子の兵法はすなわち、人生をいかに楽しく生きるかという人生哲学に直結しています。
私達の多くは、先へ進もう進もうと努力することは出来るが、人が一生懸命先に進んでいるときに、1歩下がって道を譲り、じっくりと大局を見ることが不得意かもしれません。
学校では、常に人より先んじる人がえらいと教えられ、それを信じて走り続けてきたような気がします。
ですが本当にそうなのでしょうか?
老子はこう教えているのです。
1歩先に行くより、ぐっと後ろに下がってじっくりと大局を見なさい。そうすればむやみに争う必要もなく、楽しく余裕を持って生きることが出来るのです、と。
なるほど、これは込み合った駅での歩き方にも通じます。
皆が出口に向かって殺到している時に落ち着いて先を急がず、人と人の切れ間を見て歩けば、ぶつかることもなく思いのほか早く外に出られるものです。
先を争う対立の気で進路を邪魔されたり、互いに身体がぶつかって前に進めないことはよく有ることです。 人生も同じです。
どうしても自分が主となろうとして意見を主張すると対立の気を生みますし、また相手の話をよく聞けば、対立が生まれず会議がスムーズに進み、結局自分の意見が通ったという経験を皆さんもお持ちなのではないでしょうか。
これは家庭内でも同じですね。
夫婦も親子も、互いに相手に譲る気持ちを持つことで、陰陽調和の和やかな家庭の気が保たれるのです。
必ず自分が先に行こうとしないで、1歩退く勇気を持つことを実践してみることで、これまでの前向きな頑張りの人生に更に余裕が備わって、家庭も仕事も晩年も楽しい本当の豊かな世界が見えてくるのではないでしょうか。